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岸辺の旅

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黒沢清作品を近場のシネコンで観る日が来ようとは‼︎ やはりカンヌ国際映画祭 ある視点部門 監督賞という影響力は大きいですね…と驚いた後で気づいたんですが、黒沢監督の前作「リアル〜完全なる首長竜の日〜」もシネコンで上映されてましたね(笑)

これまで観た黒沢清作品には様々なテーマがあったように思いますが、個人的に多くの作品に共通しているのは死と生、現実と虚構の曖昧な境界線、廃墟(かつて存在していたものの亡骸)、そして「人と人は完全に分かり合うことは出来ない」といったものだと捉えています。もちろん黒沢清作品にもっと通じている方達からすれば、とても浅くて表面的な理解にとどまっているんだろうと思いますが…

この「岸辺の旅」は、3年前から失踪していた夫が突然帰ってきて「俺、死んだよ」と言うところから始まります。ここでリアリティがないとその後の展開や物語についていけなくなりますが、本当に自然にその世界観に入り込めました。それは黒沢監督の演出、深津絵里さんと浅野忠信さんの素晴らしい演技があったからだと思います。黒沢監督がこの作品で「生きている者と死んでいる者の境界線を曖昧なものとする」ということを映像化しようとしたのだと思いますが、何せ原作を読んでいないのでそれがどのくらい黒沢監督の狙いなのかはわかりません。しかし映像には黒沢作品でしか味わえない独特な雰囲気やある種の緊張感が漂っていることから、黒沢清という映像作家が唯一無二の存在だと言うことができると思います。例えば同じ画面の中に2人もしくは3人の人(厳密に言うと死んでいる人も含まれている)がいる時のそれぞれの位置関係やその捉え方や構図、またあるシーンでの照明、役者の他の作品では見せないような演技(この作品での蒼井優の恐ろしさ!)などが、彼の作品の個性となっているのでしょう。

この「岸辺の旅」という作品の特異なところは、一見様々なジャンルを含んだ作品のように見えて実はそのどれにも属さないという点です。幽霊もの、ホラー、ロードムービー、家族ドラマetc.といった要素はありますが、そのどれにも分類出来ないというか…ジャンルという枠組みから飛び出している作品だと思います。正にワンアンドオンリー黒沢清監督にしか撮れない映画ですね。

役者について。主演の2人の素晴らしさは誰もが認めるところだと思います。深津絵里さんの全ての出演シーンでの驚くべき美しさと凛とした存在感、そして的確な演技。改めて素晴らしい女優だと実感しました。浅野忠信さんも最近はかっちりと決め込んだ演技が多かったように思いますが、この作品では近年あまり見せなかった自然体な感じの演技(若い頃に「FOCUS」や「鮫肌男と桃尻女」で見せたような!)で凄く良かったですね…個人的には浅野さんはこの演技の方が何十倍も魅力的だと思います。他にも先ほど少し触れた蒼井優の恐ろしさや、小松政夫さんや柄本明さんの不思議な存在感などもこの作品を支えていたように感じます。

黒沢清監督の作品はこれまであまり観てきませんでしたが、興味のある旧作が5〜6本ありますので観たいと思いますし、来年公開予定の「クリーピー」(出演者は竹内結子西島秀俊香川照之東出昌大川口春奈)も見逃せませんね‼︎