趣味の部屋

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フォックスキャッチャー

ついさっき観終わったばかりですが、作品の完成度の高さや出演している俳優の演技の素晴らしさに感銘を受けたので、興奮冷めやらぬ状態で記事を書こうと思います。f:id:Cozy0823:20150327223701j:plain

実話を基にしたショッキングな射殺事件が起きるまでの様々な複線が巧みに描かれていました。同じオリンピックのレスリング金メダリストでありながら、偉大な兄デイヴの影のような存在であるマーク。そしてデュポン財閥の御曹司であり富も名声も得ているのに、レスリングに対する偏執的な愛情を持ち“コーチ”という立場に拘るジョン。2人は「承認欲求」と「自分の存在意義」、「偉大な家族を超えたい」という思いや、全く正反対の環境で育ちながら実は似た境遇や経験をして同じような孤独感や欠乏感を持っているという共通点があり、出会った当初は意気投合し擬似親子関係か師弟関係のように見えますが…やはりそれは兄弟の絆や情の深さ、そして母親から認められたいという思いと比べるとあまりに脆いもので、それで満たされないジョンがマークの兄デイヴまでも自分の配下に置こうとすることが悲劇の始まりになったように思えました。

非常に印象的なシーンがありました。ジョンが作らせていた、自分を褒め称えるためのドキュメンタリー番組の撮影で、カメラマンがデイヴに「ジョンが好きな表現を使って話してくれ。“支配下”とか“圧倒的”とか」(うろ覚えなので正確ではないかもしれません。あと確かもう一つ挙げてたけど忘れました…)とヤラセ指導していました。まさにジョンの欲していたことと、ジョンがレスリングに情熱を傾けて肩入れをする理由がそのまま当てはまる部分だと感じました。

あとジョンが母親と話す場面で、鉄道模型について話すくだりがありましたが、あれがジョンという人間を端的に表していたと思います。恐らく一時期熱中して手に入れたり偏執的な愛情を傾けていたはずのものに対して、ある程度の年月を経ると全く執着しない(少なくと
もそう見える)。あの場面は少しゾッとしましたね…起きてしまった悲劇も、彼のあのような性格が引き起こしてしまったものなんでしょうね。

監督のベネット・ミラーの手腕も素晴らしかったと思います。彼はデビュー作「カポーティ」の時からそうでしたが、俳優の素晴らしい演技を引き出すのが上手いですね。きっと的確な演出をしているんでしょう…あと台詞で多くを語らなくても、幾つかのシーンでその人物について雄弁に語るのが巧みですね。今回の作品だと最初の幾つかのシーンでマークの孤独感や満たされない思いが手に取るように理解出来ました。音楽も効果的でしたね。マークが世界大会で優勝した後の内輪でのパーティーで流れている曲がデヴィッド・ボウイの「FAME」(名声)だったのはその歌詞と状況がマッチして、これから起こる悲劇の前触れのようになっていました。映像の質感もストーリーに合っていたと思います。かなり彩度を落とした暗めの画像で、ほぼ全編に渡って不穏な空気感が漂い緊張感を強いられる映像でした。

演技の素晴らしさについて。主演の3人は皆素晴らしかったと思います。特にスティーブ・カレルとマーク・ラファロは凄かった…このような一般受けしないであろう派手さがない作品にもかかわらず、アカデミー賞のノミネートを受けるだけのことはありました。スティーブ・カレルは不穏な空気と妙な危うさ、そして満たされないジョンを見事に演じていました。正直怖かった…もうスティーブ・カレルがコメディ映画に出ていても、笑えないかもしれません。マーク・ラファロは相変わらず最高でした!彼が出ている作品で彼が印象に残らなかったことがない気がします。演じる役の幅も広いですし、出演する作品の選択もイイですよね。今後も出演作品を楽しみにしたいと思います。

「アメリカン・スナイパー」やこの「フォックスキャッチャー」のような骨太のアメリカ映画は個人的には大好きです。実話を基にした悲劇を通して語られる様々な示唆やメッセージが込められている映画。こういう映画を観たくて映画館に通い続けてるんだな!と改めて実感しました。