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アメリカン・スナイパー

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現役監督の中で一番好きで尊敬しているクリント・イーストウッド監督最新作「アメリカン・スナイパー」を観ました。

アメリカでは大ヒットのこの作品(84歳の監督がキャリアで最大のヒット作を最新作で出すなんて!)ですが、観終わった後の感想は「この映画が大ヒットするアメリカって…どうこの作品のメッセージを解釈したんだろう?」というものでした。中にはマイケル・ムーアのように「人殺しを英雄化している」という批判をしたり、「アメリカ=正義、イラク=悪というふうに正邪を決めつけている作品だ!」と受け取る人も少なからずいることでしょう。

これまでの名作と呼ばれる戦争映画がそうだったように、この作品でも戦争の残酷さ、虚しさ、兵士が抱える矛盾や葛藤、戦争後も苦しむ本人と家族、アメリカの正義とは?というテーマを非常に巧みに、しかも説明台詞ではなく役者の演技や素晴らしい撮影や音響、美術や編集で描いていました。勿論イーストウッド監督の演出の素晴らしさは言うまでもありません。「優れた戦争映画は反戦映画になる」とはよく聞く文句ですが、まさにこの作品もその仲間入りでしょう。

イーストウッド監督の作品は新しい作品でも、大好きな70年代のアメリカン・ニューシネマ作品と同じような風格と貫禄、メッセージを感じることが多く、例えば「許されるざる者」や「ミスティック・リバー」、「グラン・トリノ」に「ジャージー・ボーイズ」あたりは個人的に大好きな作品で公開されてすぐに名作群の仲間入りという感覚ですが、この作品はそのカテゴリーで考えると「ディア・ハンター」や「タクシー・ドライバー」、「地獄の黙示録」に通じるものがあるのではないでしょうか?

特にこの作品で特徴的だったのが、戦地から帰還した後の描写です。ブラッドリー・クーパー(キャリアハイの素晴らしい演技!)演じる主人公カイルの焦燥感や苛立ち、神経過敏になっている様子が巧みに描かれていました。愛する妻タヤ(これまた素晴らしい演技だったシエナ・ミラー)や子供たちと過ごせているのに、幸福感を感じるどころかイラクの様子や敵のスナイパーのムスタファのことばかりが気になっているのがリアルでしたね…カイルは確固とした信念や強い意思の持ち主として描かれていましたが、それでもやはり心揺れる場面(例えば武器を手にした少年を狙いながらも「捨てろ…武器を捨てるんだ、クソガキ」と呟くシーン)も描くことで、伝説のスナイパーも自分たちと同じ感情や弱さを持った人間だ、ということが伝わってきました。

そして何と言っても無音のエンドロールが圧巻でしたね…僕が観た回では誰一人として席を立たずに最後まで座って観ていました。あの無音のエンドロールにはイーストウッド監督の信念や意志を感じずにはいれませんでした。

イーストウッド監督の作品は「ミスティック・リバー」以降、必ず毎作品映画館で観ることにしていますが、今回の「アメリカン・スナイパー」は観終わった後の感覚は「凄い作品を観てしまった…」と感じた「ミスティック・リバー」に近く、作品のクオリティは「グラン・トリノ」と肩を並べる素晴らしさだと感じました。恐らくこの作品は2015年の個人ベスト作品になるのではないだろうか、という予感がします。
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