趣味の部屋

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海街diary

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元々原作の大ファンで何度も何度も読み返した思い入れの強い作品なので、大好きな是枝裕和監督が映画化するといっても不安に感じていました。「原作のあの世界観を果たしてちゃんと映像化できるのだろうか?それに明らかにミスキャストと思える人が2〜3人いるけど…」といった感じで。ですから映画が公開されてもしばらくは「早く観たいけど、でも少し観に行くのが怖いなぁ」といった複雑な思いを抱えていました。

しかし昨日実際に映画を観て、自分の心配が杞憂に終わったことがわかりとても嬉しく感じました。是枝監督が原作とそのテーマを踏襲しつつも、是枝作品の特徴である生活の中のふとした瞬間の豊かさや、穏やかな日々の中に起こる様々な出来事、それに対する人間の心の機微、そして美しい風景や自然を写しつつもどこか陰があったり死の匂いがする映像や空気感を存分に堪能できました。これは是枝監督が原作をきちんと咀嚼して自分のものにしている何よりの証拠でしょう。現に原作にないオリジナルのシーンが幾つもありましたが、全く取ってつけたような違和感を感じず、むしろ映画の中で特に印象に残るシーンになっていました。これって凄いことですよね…勿論原作ファンの一人として「あのエピソードは使わないんだ」とか「このエピソードはこうアレンジしちゃったんだね」と感じ残念に思う部分も正直ありましたが、そんなことはほんの些細の事に思えるくらい素敵な作品でした。

主演女優4人について。まず長女役の綾瀬はるかさん。正直キャストを知って個人的に一番ミスキャストに感じたのは彼女でした。原作の幸は強さやしっかりとした面が表に出ており、脆さや弱さを一人で抱え込み決して表には出さない所謂ザ・長女!っていう感じで描かれています。ですから是枝監督の前作「そして父になる」で素晴らしい演技を披露していた尾野真千子さんや真木よう子さんのようなイメージを幸に抱いていました。その二人ではなく、全くイメージと違う綾瀬はるかが幸を演じる?大丈夫なのか?と思ったんですが…いや〜、参りました。是枝監督が彼女を幸にキャスティングしたのは本当に見る目があったとしか思えません。幸の複雑な境遇(姉というより母親代わりとしての立ち振る舞い、不倫した父への複雑な感情を抱きつつも自分も同じような状況にいることなど)を細やかな動作や台詞で見事に演じていたと思います。綾瀬さんの背筋が伸びた凛とした姿は、まるで古き良き日本映画の中の女優のような雰囲気を醸し出しておりとても素敵に感じました。
次女役の長澤まさみさん。原作ファンとしては一番納得がいくキャスティングでしたので何の心配もしていませんでしたが、予想以上のハマり役でしたね。長女とは対称的な奔放さを持ちつつ実は温かさも人一倍持ち合わせており、姉や妹のすずのことを慮っており気遣う一面もあるという部分をさりげなく演じていたと感じました。長澤まさみ、本当にいい女優になりましたね…
三女役の夏帆さん。原作の千佳ちゃんとは見た目も雰囲気も全然違いますが、兄弟間での立ち位置が三女っぽかったので「あぁ、ハマってるなぁ…」と感じました。なんとなく家族内のバランスを保って和やかな空気感にしているのは彼女の功績ではないか、と思わせる言動をさりげなく演じていたと思います。あと夏帆さんは食べるシーンでいっぱい口の中に頬張っていたのが可愛かったですね。
四女の広瀬すずちゃん。陳腐な表現になりますが本当にキラキラしていました!若い女優には「その時期にしかない輝き」というものがあると思いますが、まさにこの映画の広瀬すずちゃんはその瞬間がフィルムに記録されているのではないでしょうか。ちょうど「花とアリス」での蒼井優さんや、三女役の夏帆さんが「天然コケッコー」でそうであったように。そして注目したいのはあの若さでキャリアの長い女優・俳優と同じ画面に収まっているのに、その存在感で全くひけをとらないという点です。全く物怖じしておらず、将来に期待できる若手の女優がまた一人増えたと感じました。

他のキャストも素晴らしかったです。特に印象的だったのは樹木希林さん、加瀬亮さん、大竹しのぶさん、リリー・フランキーさんです。それぞれが佇まいと存在感で映画の世界観を形成する助けになっていたと思います。勿論風吹ジュンさんや前田旺志郎くん( 「奇跡」でも際立って素晴らしい演技でしたね)、堤真一さんも素晴らしい演技でした。あっ、レキシの池ちゃんも良かったですよ!

あと最後に述べておきたいのは四姉妹が住むあの家と鎌倉の街並み・自然の素晴らしさです。是枝監督がインタビューで「この家に出会って映画が動き出した」と言っておられましたが、まさに原作のイメージとぴったりのお家を見つけて撮影に使う事ができたのはこの作品にとって本当に大切なポイントだったはずです。物語に説得力を与えるというか、世界観がより立体的になるというか…それは鎌倉の街並みや自然も寄与している点だと思いますが。海、山、木々、桜のトンネル、江ノ電、坂道、蝉の鳴き声、そして何と言っても香田家の庭の梅の木!全て素敵で、それぞれがこの映画の魅力の一部となっていました。

この映画を観ている最中に「あぁ、この映画の世界にもっと浸っていたい。この映画が終わって欲しくない」と何度も思ったので、個人的にはこの作品が愛おしく大切な作品になったんだろうと思います。Blu-rayの発売が待ち遠しくて堪りません‼︎